10月に入り、不動産オーナーの方からの来年の確定申告に向けてのご相談が増えてきました。
私がよくご相談を受けるのは、賃貸アパートやマンションを所有するオーナーもしくは先代から相続で引き継いだ2代目オーナーの方です。
棟数が1〜3棟、部屋数が10〜20室、賃貸収入でいうと500〜2,000万円くらいになります。
築年数が、30年以上経過している物件が多く、一部屋100万円以上の原状回復工事や500万円以上の屋上・外壁の大規模な修繕工事を実施しているケースが多くみられます。
不動産経営において、建物の維持管理は必須ですが、ここで発生する費用を「修繕費」として一括で経費にできるのか、それとも「資本的支出」として資産計上し、時間をかけて減価償却しなければならないのか、判断に迷うことが多いかと思います。
この判断を間違えると、納税額が大きく変わってきます。
今回は、経費処理をスムーズに行うための判断基準と、知っておきたい特例についてお伝えいたします。
1.修繕費と資本的支出の基本判断
基本的に、建物の価値を高めたり、耐久性を増したりする支出は資本的支出となり、現状維持や原状回復のための支出は修繕費となります。
この区別は複雑なため、まずはフローチャートで判断を試みましょう。
2.修繕費として処理できるフローチャートの活用
「資本的支出をフローチャートにより判断しよう」の考え方に基づき、以下の基準を満たす場合は、修繕費として処理できる可能性が高くなります。
基準 | |
---|---|
① | 20万円未満の支出であること。(金額基準) |
② | 3年以内の周期で行われるものであること。(周期基準) |
③ | 60万円未満、または建物の前期末取得価額の10%以下であること。(形式基準) |
【具体的な処理の例】
- 外壁塗装、屋上防水工事、LED設置といった一般的な維持管理の費用は、これらの形式基準を満たし、修繕費として計上されるケースが多いです。
例: 前期末取得価額1億円の建物に対し、500万円の外壁塗装を行った場合、1億円の 10%(1,000万円)を下回るため、形式基準により修繕費として計上できます。
- 一方で、システムキッチン、ユニットバスなど、設備をグレードアップしたり、新しいものに入れ替えたりする支出は、原則として資本的支出(建物や付属設備などの資産)として扱われます。
3.「少額減価償却資産」の特例
建物の維持管理・原状回復工事には、エアコンや給湯器など建物に備わっている器具備品を新しいものに交換することがあると思います。
その場合、基本的には、資本的支出という考えではなく、新しい資産の取得となり、10万円以上の工事は、資産と判断されます。
ただし、その金額によっては一括で経費にできる特例(少額減価償却資産)を検討できます。
この特例を利用することで、購入した年度に全額を経費に算入し、節税効果を高めることが可能です。
特例の適用条件
以下の条件をすべて満たしている必要があります。
- 青色申告を行っている中小企業者等であること。
- 取得価額が30万円未満であること。
- 取得価額の合計が、年間300万円までであること。
- 申告書等に明細書を添付して申告すること。
その他の少額資産の取り扱い
- 10万円未満の費用は、その年度の経費として全額計上できます。
- 20万円未満の費用は、一括償却資産として3年間で1/3ずつ経費にすることも可能です。
オーナー様は、資本的支出となる設備投資を行う際、この「30万円未満」の基準を意識することが重要です。
4.税務署に提出する際の注意点
修繕費や資本的支出の計上については、税務申告書にも記載することがポイントです。
- 個人事業主の場合は、青色決算書の4ページ目「特殊事情」欄。
- 法人の場合は、法人事業概況書の裏面「当期の営業成績の概要」欄。
これらの箇所に、「修繕費として計上した外壁塗装の〇〇万円は、前期末取得価額の10%以下であるため形式基準により修繕費として計上しています」といった、判断の根拠を具体的に記載することことで、税務署側も何のための工事だったのかを把握することができ、余計な詮索を省くことができます。
正しい知識を持って経費計上を行うことで、安定した不動産経営を目指しましょう!
ご不明点があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
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