私は基本的にお客様の業種を特定していませんが、建設業のお客様の割合が多いです。
これまでも建設業の税務会計については、10年以上の経験値があります。
また、地域のライフラインに関わる仕事が多いため、建設業のお客様をサポートすることで間接的にその地域貢献の仕事に関われていると思うと大変やりがいがあるので、好きで得意な業種といえます。
そんな建設業ですが、新しく問い合わせがくるお客様の決算書を見ると貸借対照表と損益計算書しかないケースが多いです。
適正な税金計算を行っていればこの二つの財務諸表でことが足りているとも言えるのですが、建設業における工事原価報告書(完成工事原価報告書)は、単なる会計書類にとどまらず、建設業の経営実態を正確に示すために不可欠な書類といえます。
そのため、私が顧問契約をさせていただく場合には工事原価報告書を作成するようにしています。
そこで工事原価報告書の役割についてこれまでの経験からお伝え致します。
1. 会社の経営状況把握と利益確保
工事原価報告書は、経営管理の観点からも非常に重要な役割を果たします。
経営実態の「見える化」
- 建設業特有の会計処理により、売上原価を材料費、労務費、外注費、経費などに区分して集計します。
- これにより、どの工事にどれだけのコストがかかったかを詳細に把握でき、原価の無駄や利益率の低い工事を特定できます。
- 完成工事高から完成工事原価を引くことで完成工事総利益(粗利)が算出され、本業の儲けが明確になります。
この本業の儲けを実は把握していない経営者の方が非常に多いと感じています。
適正な価格設定と予算編成
- 過去の工事原価のデータを基に、将来の工事の適正な見積額や予算をより正確に策定できます。
- 原価管理を徹底することで、赤字工事を防ぎ、安定的な利益確保につなげることができます。
この工事原価の把握はできれば工事ごとに行うことが望ましいです。
全体的に粗利益が良くても、その中身を分析できなければただの決算のための書類になってしまいます。
2. 建設業特有の行政手続きにおける必須書類
工事原価報告書は、税務申告自体には必須の添付書類ではありませんが、建設業者が行政に提出する以下の重要な手続きにおいて不可欠となります。
建設業許可の維持・更新
- 建設業法に基づき、建設業許可を持つ事業者は、毎事業年度終了後4ヶ月以内に決算変更届(事業年度終了届)を提出する義務があります。
- この届出には、財務諸表の一部として完成工事原価報告書の添付が求められます。
- この提出がないと、許可の更新ができなくなる可能性があります。
経営事項審査(経審)の受審
- 公共工事の入札に参加するために受ける経営事項審査(経審)においても、工事原価報告書は重要な評価資料となります。
- 経審では、完成工事高や完成工事原価などが会社の収益性や技術力を示す指標として評価点数に直結するため、正確な作成が極めて重要です。
3. 建設業のお客様で気をつけていること
建設業を顧問とする税理士は、工事原価報告書の重要性を理解し、その作成に積極的に関与する必要があります。
正確な財務諸表の作成
- 税務申告用の決算書だけでなく、行政に提出する建設業会計のルールに則った財務諸表を作成し、工事原価報告書を組み込む必要があります。
- 特に、外注費と労務費の区分など、建設業特有の勘定科目の処理に注意が必要です。
経審評価を意識したアドバイス
- 建設業の財務諸表は、税務上の利益だけでなく、経審の評価点に直結します。
- 税理士は、お客様の経営状況を深く理解し、適法な範囲内で経審の評価を有利にするためのアドバイスを提供できます。
工事原価報告書は、建設業者が事業を継続し、成長していくために欠かせない、経営の羅針盤とも言える書類です。適切な作成と活用を通じて、会社の健全な経営に貢献することが、税理士の重要な使命です。
弊所では、成長を志す地域社会を明るくする建設業のお客様を積極的にサポートしています。
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