不動産オーナーの方々がよく口にする言葉があります。
「うちは家族仲が良いから、あとはみんなで話し合って決めてくれればいい」
子供たちを信頼する親心から出る、ごく自然な考えでしょう。
しかし、この「善意」が、残された家族に想像以上の重荷を課すことになります。
なぜなら、賃貸物件の相続は、誰がどの部屋をもらうかという単純な話ではないからです。
多くの場合、そこにはローンという大きな負債が残っています。
経営経験のない相続人が、突然大きな借金を背負い、空室対策や入居者トラブル、建物の修繕といった複雑な経営判断を迫られるのです。
これは、大切な家族を失い、悲しみに暮れる中で行うにはあまりにも過酷な決断です。
そもそも、事業に関する重要な判断は、冷静かつ分析的な思考が求められますが、悲しみの渦中にいる相続人にはそれがほとんど不可能です。
賃貸経営をしたことない人がいきなり借金を抱えて経営が軌道に乗るほど賃貸経営はあまくありません。
「家族で話し合って」という一言は、愛情ではなく、何の準備もできていない家族を厳しいビジネスの現実に突き放してしまう危険性をはらんでいます。
想定外②:資産だと思っていた不動産が、実は「借金付きの事業」だった
相続人の多くが直面する、もう一つの大きな驚き。
それは、これまでプラスの「資産」だと思っていた不動産が、実は負債と責任を伴う「事業」であったという事実です。
現金や自宅の相続であれば、その価値は比較的明確です。
しかし、賃貸物件は異なります。
目に見える建物や家賃収入の裏には、銀行からの借入金、固定資産税、修繕積立金、管理会社への手数料といった継続的な支出が隠れています。
さらに、空室リスクや家賃滞納、入居者間のトラブルなど、常に経営的な判断が求められます。
相続人は、突然、一つの会社の経営者になるようなものです。
プラスの財産を受け取るという期待が、気づけば「借金を返済しながら事業を運営する」という重い責任にすり替わっている。
このギャップが、相続を「もらう」ものから「背負う」ものへと変えてしまい、家族にとって大きな負担となるのです。
想定外③:配偶者の生活費 vs. 子供への承継という板挟み
最後に、非常にデリケートでありながら、多くの家庭で問題となるのがこのケースです。
まず、一次相続で亡くなった方の配偶者が物件を相続し、その家賃収入を生活の糧とします。
これはごく一般的な流れです。
しかし、ここに落とし穴があります。
本来、将来的には子供たちへ資産を引き継ぐ「二次相続」を視野に入れるべきですが、配偶者は日々の生活のために家賃収入を手放すことができません。
結果として、子供たちへの事業承継が完全に停滞してしまうのです。
配偶者の「今の生活」を守ることと、子供たちの「未来の相続」をスムーズに進めること。
この二つが対立し、身動きが取れない状態に陥ります。
良かれと思って配偶者に資産を集中させた結果が、次の世代へのバトンタッチをより複雑で困難なものにしてしまう。
これは、多世代にわたる長期的な計画がなければ回避が難しい、根深い問題です。
結論:本当の相続は「計画」そのものである
賃貸不動産オーナーが家族に残せる最高の贈り物は、建物そのものではありません。
それは、借金が適切に管理され、安定した利益を生み出す「優良な事業」と、誰がそれをどう引き継ぐかという「明確な事業承継プラン」です。
空室を減らし、経費を見直し、税引後の利益で着実に借入金を返済していく。
そして、その健全な経営状態を、準備のできた後継者に引き継ぐこと。
それこそが、オーナーに課せられた最後の、そして最も重要な「先代の役目」と言えるでしょう。
「あなたの財産は、遺されたご家族にとって本当に『資産』でしょうか?それとも、見えない『負債』を抱えさせてしまう危険性はありませんか?」
「あなたの物件の現在の借入金と収支のバランスは健全か?」
「もし明日、あなたが不在になったら、ご家族は誰に相談できるか?」
この機会に、ご自身の事業承継について、専門家を交えて具体的なシミュレーションをしてみませんか?
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